「オペラ座の怪人」に携わった経緯~本番まで

2017年末かもしくは2018年の初めに、全体の顔合わせがあった。その時に初めて、新たにオペラ座の怪人で指揮をとることとなる藤井氏、プロの声楽家である池田真己氏、清原邦仁氏、古瀬まきを氏らと会った。

本番までは4,5回ほど全体練習があったが、ほとんどの時間は個人個人での準備である。アンドリュー・ロイド・ウェバーの楽譜のコピーが渡されたがそちらはピアノ譜だった。だが本番はオーケストラの演奏にのせて声楽家の方たちに歌ってもらう。よってピアノ譜では使ってもコードや和音の確認程度にしかならないので、tomoco.Kと僕とでオペラの音源を元に全て耳コピし、PCに打ち込んだ。どえらい作業だった。何度も何度もヘッドフォンで聴いて、全パートを書きおこしていく。オペラなので当然参考にする音源には歌声も入っているため、声の倍音なのか弦楽器の音なのか判断が難しいところもあった。そういった場合は同じ曲で他の音源を聴き比べてみたり、前後の流れを考えたり、ひたすらに集中してその音を理解するしかなかった。


本来オペラには実際の楽団がいて、そこには指揮者がいる。演奏は当然指揮者に委ねられ、歌手と指揮者間の関係はと言うと実質指揮者が歌手を見ているという。舞台上の人間が一番偉いのだ。

今回は演奏会形式と言って演出などは抑えられる形式をうたってはいたが、ある程度は演出もある。と言うか指揮者がいないのだ。強いて言うなれば僕だ。
別に全て完コピする事は出来る。問題は、生の歌に打ち込みを完璧に合わせに行くということだ。歌には多分に感情も入るし、プロと言えども本番では走る事も考えられる。「指揮者がいてくれれば」と何度も思ったものだ。
結果的にとった方法は、Ableton liveのアレンジメントビューで全て打ち込んである状態で、歌の抑揚に追従できるよう常に外部コントローラーでテンポをコントロールし、また曲間で大きく間の空く部分ではブレーク箇所を必要に応じて設け、頭に一つずつスタートポイントを作って歌手の呼吸に全て合わせられるようにした。つまり本番中は、僕は一瞬たりとも歌手の口元や身体の動きから目を離さなかった訳である。

また、今回の場合”演出家”が不在であった。これは関わって初めて分かったが結構な問題だ。演者はどう出てきて、どういう感情でどう振舞って、どういう歌い方をして・・・という部分を引っ張る人間がいなかった。なので、清原氏がその役割まで担ってくれた。清原氏は学校で講師をされているということもあり、教え方が非常に上手かった。面白いし、わかり易い。部分的にアマチュアの方々も出演されたのだが、彼らに教えた時、その変わりようは見ていて本当に驚いた。何より、表現者として自分たちもステージに立つ側として、勉強になることがいろいろとあった。
全体練習ではそうやって、清原氏をはじめ池田氏、古瀬氏の3人が中心となり細かな箇所を確認したり、アマチュアの方々の指導に尽力してくれた。


そしてこの時、飯面氏との間でのやり取りにおいてもいろいろと問題が発生していた。様々な事情が重なった結果、実は本番2週間前の時点でサンドアートが出来るのかどうか、解らなかったのである。
今回の企画で僕たち”よる”として関わっていたが、実際の楽曲面での仕事量で言うと9割近くは僕の仕事だったと言っていいと思っている。勿論あとの康成とtomoco.Kも本番での演奏で生のライブ感を演出した訳だが、それ以上に例えば、tomoco.Kは音楽協会の役員として難しい板挟みの場面もあった中奮闘してくれた。康成はと言うと正にこういった難しい局面で必要な人間に適切な立場で話をしてくれ、そのお陰で結果ひとつの不足もなく会を終えることが出来た。

こうやって少し奇妙な部分は多々あったものの、関わった全ての人間がそれぞれの持てる特性、というか才能、長所を自分の役割の中で全て出し切り、会は成功へと向かっていったと振り返らずにはいられない。

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